料理研究家、料理大好きフッくんです。
おせちの重箱の一段を埋める、根菜と鶏の煮物。筑前煮は、正月にも平日にも顔を出す「煮物の親玉」ですよね。ところが家で作ると、味が芯まで入らなかったり、里芋が煮崩れたり——「あの照りと味しみ」に届かない日が多い料理でもあります。
先に結論からお伝えします。筑前煮は、炒めて、冷ます。鶏と根菜をごま油で炒めてから煮る順番と、火を止めて冷ます時間が味しみの正体。黄金比は、だし300mlに醤油3:みりん2:酒2:キビ糖1——この三つを守れば、根菜の角が立ったまま、芯まで味の入った筑前煮が炊けます。
こんなお悩み、ありませんか?
- 味が芯まで入らない
炒めの省略と、冷ます時間の不足です。順番でお伝えします。 - 里芋が煮崩れる・こんにゃくに味がつかない
下処理の7項目で解決します。図解します。 - 調味料の分量がいつも目分量
4人前の黄金比と分量表をお渡しします。 - おせちに、いつ作ればいい?
冷蔵3〜4日。仕込む日と、冷凍できる具・できない具をお伝えします。
現役料理人20年、年末の仕込み場で毎年大鍋の筑前煮を炊いてきた経験で「筑前煮の作り方」を完全解説します。最後まで読めば、重箱の一段が自分の手で埋まりますよ🍳

筑前煮ってどんな料理?(がめ煮と、煮しめとの違い)

筑前煮は、福岡の郷土料理「がめ煮」が全国に広まった名前です。鶏と根菜を油で炒めてから、だしと醤油で煮からめる「炒め煮」が骨格で、油のコクと照りが、ほかの煮物との違いです。「がめ煮」の由来は、いろいろな具を「がめくり込む(寄せ集める)」という博多の言葉から、と言われています。
よく似た「煮しめ」との違いは、炒めるかどうか。煮しめは炒めずに、具ごとに煮含めて、汁気を残さず仕上げる関東や東北のおせちの煮物です。筑前煮は炒めて一鍋で煮からめる——だから照りが強く、時間も短い。この記事は筑前煮に絞ってお話しします。煮しめは別の記事の受け持ちです。
黄金比(だし300mlに醤油3:みりん2:酒2:キビ糖1)

鶏もも1枚(約250g)と根菜の合計約600gに対して、だし300ml・醤油大さじ3・みりん大さじ2・酒大さじ2・キビ糖大さじ1、炒め油はごま油大さじ1——これが私のお店の基本形で、4人前、重箱なら一段分です。だしは、干ししいたけの戻し汁を加えると、煮物の深みが一段変わります。甘さはキビ糖で調整し、甘めが好きな家庭は大さじ1.5まで。醤油3:みりん2:酒2は動かさず、キビ糖だけで家の味を作るのが、迷わない黄金比の使い方です。
| 材料(4人前・重箱一段) | 分量 | 下処理 |
|---|---|---|
| 鶏もも | 1枚(約250g) | 筋を取って一口大・皮目から炒める |
| れんこん | 1節(約150g) | 乱切り・酢水に5分 |
| ごぼう | 2分の1本(約100g) | 乱切り・水に1〜2分 |
| にんじん | 1本(約150g) | 乱切り・角を面取り |
| 里芋 | 4個(約150g) | 皮をむいて塩もみ・洗ってぬめりを取る |
| 干ししいたけ | 4枚 | 水で戻す・戻し汁はだしに |
| こんにゃく | 2分の1枚(約120g) | 手でちぎって下ゆで2分 |
| 絹さや | 8枚 | 筋を取って塩ゆで30秒・仕上げに |
| だし(戻し汁込み) | 300ml | 煮汁の土台 |
| 醤油/みりん/酒/キビ糖 | 大さじ3/2/2/1 | 黄金比 |
| ごま油 | 大さじ1 | 炒めのコク |
この記事の看板「具の切り方と下処理」(7つの仕込み)

筑前煮は、鍋に火をつける前に七割決まっています。具ごとの下処理を、順番に。
- ①鶏ももは筋を取って、一口大
もも肉の先の太い筋と、身の間の細かい筋を、包丁の先でぶちぶちと外してから一口大に。筋を残すと、煮ている間に縮んで固くなり、噛み切れない一切れになります。これは全部の鶏料理に共通の、私の譲れない仕込みです。 - ②れんこんは乱切りにして、酢水に5分
皮をむいて乱切り。酢水(水500mlに酢小さじ1)に5分さらすと、白く仕上がってシャキッと残ります。 - ③ごぼうは乱切りにして、水に1〜2分
皮は包丁の背でこそげるだけ。水にさらすのは色止めの1〜2分。長くさらすと香りが逃げます。 - ④にんじんは乱切りにして、面取り
乱切りの角を、包丁で軽く削って丸める。面取りした具は煮崩れず、角が当たらないので味も均一に入ります。里芋とれんこんも同じです。 - ⑤里芋は皮をむいて、塩もみでぬめりを取る
皮をむいた里芋に塩小さじ1をふってもみ、水で洗い流す。ぬめりを取ると、煮汁が濁らず、味がすっと入ります。手がかゆくなる方は、皮ごと下ゆでしてからむいても構いません。 - ⑥こんにゃくは手でちぎって、下ゆで2分
包丁で切らず、手でちぎると断面がでこぼこになって、味がからみます。沸騰した湯で2分ゆでると、独特のにおいが抜けて、水気も飛びます。 - ⑦干ししいたけは戻して、戻し汁はだしに
ぬるま湯で30分。戻し汁は捨てずに、だし300mlの一部にします。しいたけは軸を落として半分に。
乱切りは、形をそろえるより、火が通る時間をそろえる切り方です。火の通りにくいごぼうとれんこんは小さめ、火の早いにんじんと里芋は大きめ——同じ時間で同じやわらかさになる大きさにします。仕込み場では「固い物は小さく、やわらかい物は大きく」が合言葉でした。
面取りは、家庭では「にんじんと里芋だけ」で十分です。全部の角を落とすと年末の台所が終わらないので、煮崩れやすい二つに絞ってください。削った切れ端は、味噌汁の具にどうぞ。
作り方の順番(炒めて、煮て、冷ます)

- ①ごま油で鶏を皮目から炒める(中火2分)
皮目を下にして焼き目をつけ、返して30秒。この段階では中は生で構いません。鶏の脂が根菜のコクになります。 - ②根菜とこんにゃくを加えて、油を回す(2分)
れんこん・ごぼう・にんじん・里芋・こんにゃく・しいたけを入れ、全体に油がなじんでつやが出るまで炒めます。油の膜が煮汁のうま味を抱え込む——これが炒め煮の理屈です。 - ③だし・酒・みりん・キビ糖を加える
甘みを先に。醤油は後です。先に醤油を入れると、根菜が締まって味が入りにくくなります。 - ④落としぶたをして、中火で12分
アルミホイルかクッキングシートの落としぶたで、煮汁を全体に回します。里芋に竹串が通り始めたら次へ。 - ⑤醤油を加えて、さらに10分
醤油を回し入れ、落としぶたを戻して10分。鶏は中心75℃で1分以上、切って断面に赤みが残らないことを確かめてください。 - ⑥落としぶたを外して、煮汁を煮からめる(3〜5分)
鍋をゆすりながら、煮汁が底に少し残る程度まで煮からめると、照りが出ます。 - ⑦火を止めて、そのまま30分冷ます
ここが看板です。煮物は冷めながら味が入る。ふたをして30分置くと、根菜の芯まで煮汁が届きます。 - ⑧食べる前に温め直し、絹さやを散らす
絹さやは別に塩ゆでして、盛り付けの直前に。一緒に煮ると色が沈みます。
仕込み場の親方の言葉は「筑前煮は、冷ますまでが炊きや」でした。炊き上がった大鍋を火から下ろして、そのまま次の仕事へ。戻ってきて温め直した時が、いちばん味の入った瞬間でした。一度冷まして、食べる前にもう一度温める「二度炊き」が、お店の味しみの正体です。
おせちに向けて作る日は、前日に炊いて冷まし、当日に温め直して詰めると、この二度炊きが自然に済みます。平日なら、夕方に炊いて、夕食前に温め直す——30分の「冷ます時間」を、工程として数えてください。
失敗と対策(煮崩れ・味が入らない・固い・水っぽい)

- 里芋やにんじんが煮崩れる
面取りをしていないか、火が強いか、混ぜすぎたのが原因です。角を落として、中火で落としぶた、混ぜずに鍋をゆする。里芋は塩もみでぬめりを取ると崩れにくくなります。 - 味が芯まで入らない
冷ます時間を飛ばしたか、醤油を先に入れたか、炒めを省いたかのどれかです。甘みを先に、醤油は後、火を止めて30分。翌日に温め直せば、味は入ります。 - ごぼうやれんこんが固い
乱切りが大きすぎるか、煮る時間が足りないか。固い物は小さく切り、だしを50ml足して5分延長を。 - 水っぽくて照りが出ない
炒め不足か、煮からめの時間不足。油を回してから煮汁を注ぎ、最後に落としぶたを外して煮汁を飛ばすと照りが出ます。
年末の仕込み場の思い出をひとつ。若い頃、年末の注文が重なって、筑前煮を炊き上げてすぐ重箱に詰めて出したら、常連さんに「今年のは、味が浅いな」と言われました。親方は一言、「冷ましてへんやろ」。炊き上がりの味と、冷めてからの味は別物——それから、筑前煮は必ず前日に炊いて、当日に温め直して詰めるのが私の年末の順番です。家庭なら一鍋、30分。待つだけで、この失敗は起きませんよ。
保存と日持ち(冷蔵3〜4日・冷凍はこんにゃくと里芋を抜いて)

粗熱は浅い容器に広げて手早く取り、当日中に冷蔵へ。冷蔵で3〜4日が目安です。おせちなら12月30日か31日に炊いて、元日から三が日がちょうど食べごろ。温め直すたびに味が入るので、二日目、三日目が本番という家庭も多いですよね。温め直しは、鍋で底からかき混ぜながら中心までしっかり。重箱に詰めた分は、当日中に食べ切ってください。
冷凍は、こんにゃくと里芋を抜いた分なら、一食ずつ小分けにして約1か月。こんにゃくは冷凍で食感がゴムのように変わり、里芋はすかすかになります。鶏・れんこん・ごぼう・にんじん・しいたけは冷凍しても味が落ちません。年末に多めに炊いて、こんにゃくと里芋を抜いた分を冷凍しておけば、1月半ばの平日にもう一度、筑前煮の小鉢が出せます。ごぼうとれんこんの選び方と保存は、それぞれの保存の本家記事の受け持ちです。
筑前煮の栄養と、家族への出し方

筑前煮1人前(小鉢一杯・鶏50g前後)は、およそ215kcal・たんぱく質10g・脂質8.5g・炭水化物24g・食塩相当量1.3gが目安です。鶏でたんぱく質、根菜5種で食物繊維が4g前後——おせちの中では、栄養の柱になる一品です。
気をつけたいのは塩分。醤油大さじ3で4人前なら1人前1.3gなので、汁物を薄めにして帳尻を合わせてください。鶏の皮を外せば脂質は5g台に落ちますが、コクも落ちるので、私は皮つきで炒めて、鶏の脂を根菜に渡す派です。
鶏肉は推奨表示品目、醤油には小麦と大豆が含まれます。鶏アレルギーの方の分は、鶏を厚揚げや高野豆腐に替えて、同じ黄金比で炊けます。小麦アレルギーの方には、小麦不使用の醤油で。ごま油はごまアレルギーの方には米油に。
おせちは家族と来客が同じ重箱をつつく料理なので、「鶏入り・ごま油使用」の一言を、詰める人が言えるようにしておくのが先回りです。ぎんなんを入れる家庭は、丸くて硬い実なので、小さなお子さんの手の届く場所に置かない配慮も。
高齢者や子供にやさしい筑前煮

筑前煮は施設のおせちでも定番ですが、注意は具の弾力です。こんにゃくとしいたけ、鶏の皮は、噛む力が弱くなった方には噛み切りにくく、口の中でばらけてむせの引き金になります。こんにゃくは1cm角に小さく切るか外し、しいたけは薄く、鶏は皮を外して繊維に直角に小さく。里芋は、フォークの背でつぶしてあんにすると、飲み込みやすくなります。
飲み込みが気になる方には、根菜をやわらかく煮て小さく刻み、煮汁に水溶き片栗粉でとろみをつけてからめてください。それでも難しい日は、無理をせず、里芋とにんじんだけをやわらかく炊いた小鉢に置き換える日があっていいんです。
お子さんには、3歳ごろまでは、こんにゃくは避けて、鶏と根菜を小さく切って。こんにゃくと里芋は弾力とぬめりで、のどに詰まりやすい具です。5歳ごろまでは丸ごとの具は出さず、小さく切って、座って食べるのをそばで見守ってください。ぎんなんを入れる家庭は、5歳ごろまでは出さないでください。
おせち全体を安全にやわらか仕立てで出す工夫は、お正月の介護食献立の記事でまとめて解説しています。
鶏の生焼けと、筑前煮のアレンジ

煮物だから安心、と思われがちですが、鶏の火通りは煮物でも同じ線です。鶏の生焼けはカンピロバクターによる食中毒の原因で、まれにギラン・バレー症候群という神経の病気につながることがあります。新鮮な鶏でも起こるので、中心75℃で1分以上、断面に赤みが残らないことを、盛り付けの前に一切れ割って確かめてください。大きめの一切れが、いちばん火が通りにくい目安です。
基本形が炊けたら、具を替えてみてください。たけのこと絹さやで春の筑前煮、鶏を豚バラに替えて「がめ煮風」、厚揚げを足して精進風。余った筑前煮は、細かく刻んで炊き込みご飯の具に、卵でとじて丼に、汁を足してけんちん風の汁物にもなります。筑前煮の日の副菜と汁物の組み立ては、筑前煮に合う献立の記事にまとめてあります——作り方と献立、二つで一組の面です。
筑前煮の作り方のよくある質問
Q1. 筑前煮と煮しめ、がめ煮の違いは?
筑前煮は炒めてから煮る炒め煮、煮しめは炒めずに具ごとに煮含める煮物です。がめ煮は筑前煮の福岡での呼び名で、同じ料理と考えて構いません。筑前煮は照りが強く時間が短い、煮しめは汁気を残さず上品——おせちにはどちらも入ります。
Q2. 冷凍の根菜ミックスでも作れますか?
作れます。下処理と乱切りが済んでいるので、平日の時短に向きます。凍ったまま炒めると水が出るので、油を回す時間を1分長めに、だしを50ml減らしてください。里芋とこんにゃくは生から足すと、食感が揃います。
Q3. 里芋を触ると手がかゆくなります
皮ごと5分下ゆでしてからむくと、ぬめりが減ってかゆくなりにくいです。または、酢水で手を濡らしてからむく、ゴム手袋をする方法も。むいた後の塩もみは、ぬめりを取って煮崩れを防ぐので、どちらの方法でも省かないでください。
Q4. いつ作れば三が日もちますか?
12月30日か31日に炊いて、当日中に冷蔵へ。冷蔵で3〜4日なので、元日から3日までが食べごろです。温め直すたびに味が入るので、前日に炊くのが「二度炊き」にもなって一石二鳥。こんにゃくと里芋を抜いた分は冷凍で1か月持ちます。
Q5. 子どもは何歳から食べられますか?
鶏と根菜を小さく切ったものは1歳半ごろから、味付けは大人の半分の薄味で。こんにゃくは弾力でのどに詰まりやすいので、3歳ごろまでは避けてください。5歳ごろまでは丸ごとの具は出さず、小さく切って、座って食べるのをそばで見守ってください。
Q6. 照りを出すコツは?
最後に落としぶたを外して、鍋をゆすりながら煮汁を煮からめることです。みりんの糖分が煮詰まって表面をコーティングします。仕上げにごま油を小さじ2分の1回しかけると、つやと香りがもう一段立ちます。混ぜると崩れるので、ゆするだけが約束です。
まとめ。。。

- 黄金比は、だし300mlに醤油3:みりん2:酒2:キビ糖1
戻し汁をだしに。家の味はキビ糖だけで作ります。 - 筑前煮は、炒めて、冷ます
ごま油で炒めてから煮る。火を止めて30分が味しみの正体です。 - 下処理は7つ、面取りはにんじんと里芋だけ
鶏は筋取り、里芋は塩もみ、こんにゃくは手ちぎりで下ゆで。 - 固い物は小さく、やわらかい物は大きく
乱切りは火の通りの時間で揃えます。 - 甘みが先、醤油は後、鶏は75℃1分
先に醤油を入れると根菜が締まります。 - 冷蔵3〜4日、冷凍はこんにゃくと里芋を抜いて
前日に炊いて当日に温め直す二度炊きが、おせちの順番です。 - 高齢の方は弾力のある具を小さく、お子さんはこんにゃくを3歳ごろまで避ける
里芋はつぶして。丸ごとの具は5歳ごろまで出さずに見守りましょう。 - 献立・ごぼう保存・れんこん保存の記事とあわせて
作り方と献立で一組。おせちの棚がひとつの面になります。
今年の年末はまず、鶏の筋を取るところから。ごま油のつやの上に煮汁を注いで、火を止めて30分——温め直した時の、あの照りと味しみが、この記事のゴールです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
フッくんでした!








